植物細胞壁中のリグニンの三次元高分子構造は,壁中の場所,細胞の種類,植物の種類等によって異なり,不均一かつ多様である。この多様性は「細胞壁の構築は,植物の進化の過程を辿って,多糖類の堆積,モノリグノールの供給と重合,多糖との複合により進む」との視点から体系的に理解できる。すなわち,約4億年前出現したシダ植物および裸子植物では,HG型リグニンによる仮道管壁の防水通道性と微生物等からの攻撃に対する防御性の付与,および力学的強度の付与によって繁栄した。しかし高防御機能の縮合型HGリグニンを含む仮道管は,個体の大型化と長寿命化による世代交代頻度の低下,地球環境の変化への遺伝的適応性の低下をもたらした。多機能の仮道管は,進化した被子植物では通道機能に特化した道管と支持機能に特化した木繊維とに分化し,リグニンもSGリグニンへと縮合度を低減し防御性能を適正化して地球環境の変化への遺伝的適応性を高めた。