水文・水資源学会誌
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原著論文
低平地緩流河川流域の治水に関する事後評価的考察
吉川 勝秀本永 良樹
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2006 年 19 巻 4 号 p. 267-279

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抄録

流域治水の基礎理論に基づき,流域治水の基本的・本質的な対策は,(1) 治水施設の対応能力向上による被害額の減少(構造物対策),(2) 被害ポテンシャルの減少あるいは増加の抑制による被害額の減少あるいは増加の抑制(非構造物対策),(3) (1) と (2) を複合させた総合的な治水対策であることを示した.この考えから対策を実施した具体的な事例である日本の中川・綾瀬川流域,タイ国のバンコク首都圏域およびチャオプラヤ川流域全域における総合的な治水対策について事後評価的に考察した.対象とした流域はいずれも近年都市化が著しく進行したことで被害ポテンシャルが増大し,それにより洪水被害が増大した低平地緩流河川である.その結果,1)構造物対策については各流域の水理・水文学的な特性を考慮して,氾濫の原因に対し適切な対策が計画され,その計画は時間をかけつつ着実に実施されていること,2)非構造物対策の核心的な対応である被害ポテンシャル増大の抑制(土地利用の誘導・規制)は程度の差こそあれ,国情の下で実施され機能していること,3)以上から都市化が急激に進む低平地緩流河川流域の治水対策として総合的な治水対策は有効であると評価できることを示した.

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© 2006 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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