水文・水資源学会誌
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原著論文
洪水による都市域の浸水区域特定へのレーダーリモートセンシングデータ(ラダルサット)の適用性について
Ashraf M. DEWANKwabena KANKAM-YEBOAH西垣 誠
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2006 年 19 巻 1 号 p. 44-54

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抄録

洪水災害マネジメントにおいて詳細な洪水区域図は必須条件である.冠水し易い区域の特定に基づいて詳細な洪水災害の情報を得る手法を用いれば,損失を引き起こす洪水を最小限に抑えることができる.
本研究では,レーダーリモートセンシング(ラダルサット)のデータを利用してこれを評価し,バングラデシュ国のダッカ市で1998年に発生した洪水に伴う浸水区域の分布を高い精度で抽出した.適切な洪水対策を講じるために有用と考えられる最大浸水区域を正確に特定するために,洪水期間の7画像と乾期の1画像を使用した.レーダー画像をデジタル処理してピクセルデータに変換し,微小ノイズを除去するためにフィルタリング処理を施した.最大尤度判定規則を用いて画像を浸水区域と非浸水区域に区分した.レーダーデータの区分の精度は,地表データを参照して評価した.洪水の多時点解析によると,浸水区域は1998年7月(浸水率34.65%)から増加し始め,主にモンスーン性の豪雨と河川水位の早い時期の上昇により8月25日にピークを迎えた(浸水率51.29%)ことが明らかとなった.市内東部では深刻な洪水被害が発生した一方で,西部では相対的に標高が高く洪水制御設備も完成していたことから被害はなかった.画像の区分の精度からは,本研究で用いたデータ画像は十分な結果を得られたことは明らかである.最も高い精度だったのは7月31日の画像で88.57%に達し,つづいて7月7日(82.86%),9月10日(81.90%)の順となった.また,すべての画像に対して算出したKappa係数は,8月の画像をのぞいて良い一致を得た.この結果,SARデータは,ダッカ市などの急成長している都市での実時間洪水モニタリングにおいて極めて重要であり,洪水災害の情報とマネジメントのために重要な情報を与えることが可能であることが明らかとなった.

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© 2006 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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