応用生態工学
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ダム上流の河床勾配変化
侵食性平衡勾配から堆積性平衡勾配へ
池田 宏伊勢屋 ふじこ小玉 芳敬
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1999 年 2 巻 2 号 p. 113-123

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抄録

わが国の山間地河川では,河床・河岸に岩盤が露出して粗大な岩塊が残留している岩盤河川が卓越している.このような岩盤河川は平衡状態には達していないとみなされてきたため,その縦断勾配の値についてはほとんど研究されてこなかった.しかし,山地河川沿いに発達している河岸段丘面などからみて,急勾配の岩盤河川区間も過去数万年という時間スケールでは平衡状態に達していると見なされる.
岩盤河川の縦断勾配は河床・河岸の凹凸の程度が増すほど急になる.上流から供給される砂礫を流すためには,河床・河岸に凹凸があるほど大きなエネルギーが余分に必要になるためであることが,水路実験によって確かめられる.すなわち,流量や流砂量が同じ流れでは,河床に岩塊や巨礫が残留しているほどに勾配は増す.ダムを建設すると,その上流では河床や河岸の凹凸が砂礫に埋め立てられて平滑になるために,堆砂面の勾配は凹凸の大きい元河床勾配より小さくなる.元河床勾配と堆砂面勾配との開きは堆砂面が元河床の凹凸の程度と比較してどれほど平滑になるかにかかっている.
侵食性平衡勾配と堆積性平衡勾配とが違うとの認識に基づいて,岩盤河床に巨石を設置・固定して河床勾配を増大させて下刻を防止する工法を砂防ダムに代えるものとして提案したい.その実用化のためには,岩盤河川の河床・河岸の凹凸の程度を定量化することが必要である.そのためには,ダム貯水池からの放流による人工洪水を総合観測することが有効であろう.グランド・キャニオンを流れるコロラド川では人工洪水によるビーチの再生を目標とした総合研究が継続されている.これを手本として,特定河川を対象とした真の総合研究を実施したいものだ.

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