緑化資材として地域性種苗の利用が推奨されているが,吹付工事に必要な在来草本の種子はほとんど流通しておらず,地域性区分も決まっていない。このため本研究では,在来草本の地域性区分の基礎的知見を得ることを目的に,緑化に使用可能と考えられる在来草本 10種を対象として,葉緑体 DNA上の 5領域 (約 3,500 bp) における種内変異とその地理的分布を調査した。ハプロタイプ分析の結果,カゼクサ,トダシバ,アシボソ,ヤマアワ,チガヤ,ネコハギの 6種では,全国規模で分布するコモンハプロタイプと地域的な偏りを示す複数のハプロタイプを併せ持っており,地域性区分の検討が必要であると示唆された。一方残り 4種は全国ほぼ均一で地域性が認められなかった。また,道路密度を指標の一つとし,この偏りに対する人為的影響の有無をアレリックリッチネスにより解析した結果,人の活動がハプロタイプの分布に影響を与えているとはいえないという結果が得られた。